留学中、日本との違いに驚いたことはいくつもあった。
その中でも特に印象に残っているのが、カナダのバス文化だ。
私が初めてバスを利用したのは、ホームステイ先のあるノースバンクーバーから、語学学校のあるダウンタウンへ向かったとき。
登校初日を迎える前に場所の確認をしておこうと思い、カナダ到着から2日後くらいに一人で向かったのがきっかけだった。
ホストファミリーの家は、ノースバンクーバーの中腹あたりにある。
そこからダウンタウンへは、バス一本で行くことができた。
ノースバンクーバーからダウンタウンへ向かうバスは、ライオンズゲートブリッジを渡り、その先に広がるスタンレーパークの中を抜けて進んでいく。
私は最寄りのバス停から乗り込み、前の方の席に座った。
――そのとき。
突然、運転手に話しかけられた。
「え、私?」
周りを見ると乗客は数人しかいない。
バックミラー越しに、運転手と目が合っている。
完全に私に話しかけている。
内心めちゃくちゃ焦った。
まだカナダに来たばかりで、英語力はほぼゼロに近い。
「今なんて言った…?」
「私、何か間違えた…?」
頭をフル回転させながら、なんとか返事をする。
正直、どんな会話をしたのかはほとんど覚えていない。
ただ必死だったことだけは覚えている。
結果的には、ただの世間話だった。
そして同時に、
「え、バスの運転手ってこんな普通に話しかけてくるの?」
と衝撃を受けた。
日本ではまずありえない。
(もしかしたら地方ならあるのかもしれないけど)
それから平日は毎日バス通学をするようになり、さらに驚くことがあった。
乗客がバスを降りるとき、ほとんどの人が
「Thank you〜!」
と運転手に声をかけている。
しかもこれは特別なことではなく、日常的な光景だった。
さらに、運転手と乗客が普通に世間話をしていることも珍しくない。
この距離感の近さが、日本とは全然違う。
そして、そんなカナダのバス文化の中で、私が一番印象に残っている出来事がある。
それは、いつもと違う路線のバスに乗ったときのこと。
停車するたびに駅名をアナウンスするのは普通だけど、その運転手は一味違った。
毎回、声色を変えてくる。
陽気な声、低い声、リズム感のある声。
ちょっとしたエンタメ状態だった。
そして、ブロードウェイ駅に到着したとき――
事件は起きた。
「ブルォ〜ドゥウェェェェェェィ…」
まさかのセクシーウィスパーボイス。
一瞬の沈黙のあと、
車内に笑いが広がった。
私も思わず笑った。
その場にいた人たち全員が、同じ空気を共有していた。
日本ではまず経験しないであろう、不思議で楽しい瞬間だった。
そして後日、また同じ路線に乗ったとき。
なんと、あの運転手に再び遭遇。
そして――
「ブルォ〜ドゥウェェェェェェィ…」
やっぱりやってくる(笑)
どうやらこれは彼の定番らしい。
私はこういう、
乗車時に軽く会話を交わしたり、
降車時に「Thank you」と声をかけたり、
運転手と乗客の距離が近い、
そんなカナダのバス文化が大好きだ。


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