私が30歳のとき、
初めての一人旅でトルコ周遊ツアーに参加していた時の話。
正直、場所はどこだったか覚えていない。
ただ、現地でツアーがスタートしてから2〜3日後くらいだったと思う。
仲良くなった一つ年上の女性と一緒に、ホテル内を散策していたときのこと。
プールを見つけた。
その場で入るつもりはなかったけど、どんな感じか気になって近くまで見に行くことにした。
ちょうどその時、近くを通りかかったホテルの男性従業員に声をかけられた。
「日本人ですか?」
トルコに来てから、この質問はすでに何度もされていた。
ガイドブックで、トルコが親日国家だということは知っていたけど、実際に来てみると想像以上だった。
とにかく、よく話しかけられる。
そして、やたらと一緒に写真を撮りたがる(笑)
嫌な気はしないので、こちらも普通に返事をする。
「そうだよ〜!」
英語でのやり取りだったけど、観光地のホテル従業員だけあって、ある程度は普通に会話ができた。
「君たち、かわいいねぇ〜」
「彼氏はいるの?」
「いつまでいるの?」
――要するに、ただのナンパだった(笑)
「ていうか今、業務中だよね?」
「こんなとこで油売ってないで仕事しなよ(笑)」
なんてツッコミつつも、なんだかんだで盛り上がった。
そして最終的に、
「仕事終わりに一緒にご飯行こうよ」
という流れに。
普通なら、海外でナンパしてきた相手と食事に行くなんて絶対にしない。
何が起きるか分からない。
ここは日本じゃない。トルコだ。
でも今回は違った。
相手が“ホテルの従業員”だったからだ。
身元がはっきりしている人なら、変なことはしないだろう。
そう判断した。
それに、現地の人とご飯に行く機会なんてそうそうない。
「まぁ、いい経験になるかも」
そんな軽い気持ちだった。
私たちが女性二人だったこともあり、相手ももう一人仲間を連れてくることになった。
待ち合わせは、ホテルの裏口。
なぜロビーじゃないのか。
――後から分かったけど、従業員は宿泊客とプライベートで会うのは禁止らしい。
いや、
リスク冒してまで来るんかい!!(笑)
ひとまず、私たちのほうが先に待ち合わせ場所に到着。
しばらくその場で待っていたけど、なかなか二人は現れない。
あれ?場所ここであってるよね…?
だんだん自信がなくなってくる。
もしかして、もう少し先のほうだったかな…?
ちょっと様子を見に行きがてら、少し歩いて先のほうまで行ってみることにした。
恐らく裏門は従業員専用のため、就業を終えた社員のと思われる車がポツポツと門から出てくる。
何台かの車を見送った。
ホテル敷地の裏門から先は少し下り坂になっており、その先は住宅街が広がっている。
ちょうど夕暮れ時だったので、空はだんだんと暗くなってきていた。
車とすれ違う際に、みなこちらを見てくる。
そりゃそうだ。
宿泊客と思われる日本人がこんなところにいるのはおかしいはず。
もう、早く来てくれよ!!
だってさ。
その従業員の顔、もうほとんど覚えてないんだもん(笑)
ちゃんと分かるかな…?
坂を下っていると、ようやく一台の車が近づいてきた。
中には男性が二人。
トルコ語で何か話しているけど、身振りで「乗りなよ」と言っているのは分かった。
――あ、来た。
待ちくたびれていた私たちは、ほとんど確認もせず、そのまま車に乗り込んだ。
そして、乗った瞬間。
違和感。
あれ…?
なんか違う。
顔が違う気がする。
そもそもこの人たち、昼間の人じゃない。
「え、これ…違う人じゃない?」
――やってしまった。
完全に間違えた。
でも車はすでに発進している。
「ちょっと待って!間違えた!降ろして!!」
半ば叫びながら伝える。
でも通じない。
止まらない。
いやこれ普通にヤバい。
その瞬間、私はドアに手をかけた。
走行中。
関係ない。
開けた。
さすがに危険だと思ったのか、車は停止。
その隙に、二人で即降車。
車はそのまま去っていった。
――助かった…。
いや、たぶんあっちもびっくりしてる。
勝手に乗ってきて、勝手にパニック起こして、勝手に降りていく日本人。
冷静に考えたら、完全にこっちがヤバい人だったと思う。
何はともあれ、無事に車から降りた私たちはまたホテルのほうへ向かって戻ることにした。
すると、ホテル敷地内から裏門へ向かって歩いてくる二人の人影が。
ーー彼らだった。
徒歩だったんかい!!(笑)
なぜか車通勤だと思い込んでいた私たち。
ホテルの周辺には特に何もなく、離れた場所に住宅街が見えるだけだったので、てっきり従業員のほとんどは車通勤していると勝手に認識していた。
「さっき知らない人たちの車に乗っちゃったよ!!」
と興奮気味に話すも、
「えーそうなの?」
「じゃあ行こうか」程度の反応の薄さだった気がする。
こっちの気も知らないで…!!
とのんきな態度に腹がたちつつ、ようやく本人たちと合流できたことに安堵した。
そしてそのまま徒歩で目的地まで向かった。
「ここから近いよ」
と言っていたのに、20分くらい歩くことになった。
この時は夏だったため、目的地のレストランへ到着した時には汗だくだった。
どこが近いんだよ!(怒)
さっきの車に乗ったほうがマシだったかな…
と少々不満を抱えつつ、4人での食事がスタートした。
正直どんなものを食べたのかは覚えていない。
でもローカルのお店はローカルの人に任せたほうがいい。
恐らく彼らのおすすめ料理を食べたのだと思う。
4人での食事は楽しかった。
まぁ大半の時間はずっと口説かれていたのだけど(笑)
そこのレストランにはダンスフロアが併設されており、食事の合間に一緒にダンスを踊ったりして音楽も楽しんだ。
私たちは次の日の行程もあるので、あまり遅くならないうちにホテルに戻ることにした。
帰り道がわからないので、ホテルまで送ってもらった。
そしてまた汗だくになった。
結果的に、ちゃんと本来の相手とも合流し、食事もして、無事に帰ることができた。
いい思い出にはなった。
でも一つだけ、はっきり言えることがある。
――知らない人の車には、絶対に乗らないこと。
…と、
あの時の自分に一番言いたい。
くれぐれも、気を付けるように…。
(おまえがな。)


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