30歳の時、一人でトルコ周遊ツアーに参加した。
トルコを選んだ理由は、日本とはまったく違う文化圏をこの目で見てみたかったから。
エキゾチックな街並みや、歴史ある遺跡。
日本とはまるで違う景色を、一度この目で見てみたかった。
でも実は、もう一つ理由があった。
旅行へ行く前から、あるトルコ人男性と毎日のようにチャットをしていたのだ。
当時利用していたのは、海外旅行へ行く人と現地の人が交流できるサイト。
旅行前に知り合い、現地で時間が合えば一緒に食事をしたり観光をしたり。
そんな趣旨のサービスだった。
彼の名前はエムレ。
イスタンブールに住む青年だった。
夜になると、仕事が終わったあとによくチャットをした。
……と言いたいところだけど、
日本が夜8時なら、トルコはまだ昼の2時。
「なんで仕事中なのにそんなに返信できるの?」
と思って聞いたら、
親の会社で働いているらしい。
なるほど。
だから仕事中でも普通にチャットが返ってくるわけだ(笑)
ビデオチャットをしていたから顔も見ていた。
正直に言う。
タイプではなかった(笑)
でも、不思議なもので毎日のようにやり取りをしていると少しずつ距離は縮まっていく。
好きという感情とは少し違う。
でも、お互い少しだけ甘い言葉を交わしたりして、そのやり取り自体を楽しんでいた。
そして、いよいよトルコへ。
約1週間かけて主要都市を巡るツアーだった。
細かい旅程はもう覚えていないけど、最後にイスタンブールへ戻る行程だったことだけは覚えている。
帰国前日の夜だけ自由時間があったので、その日にエムレと会う約束をした。
ネットで知り合った人と実際に会うのは初めてではない。
それでもやっぱり少し緊張する。
パソコンの画面越しでしか知らない相手が、目の前に現れるのだから。
待ち合わせ場所は、私が泊まっていたホテル。
現れたエムレは、思っていたより背が高かった。
180cmくらいあったと思う。
でも、それ以外は画面で見ていたまんま。
「あ、本当にエムレだ。」
そんな感じだった(笑)
チャットで毎日のように話していたから、変な気まずさもない。
そのまま二人でイスタンブールの夜の街へ出かけた。
連れて行ってもらったのは、地元の人や観光客で賑わうテラス席のあるレストラン。
料理は……
正直覚えていない(笑)
たぶんシシケバブだったと思う。
「トルコに来たらこれだよ。」
そんな定番料理をエムレが注文してくれた。
そして、何を話したのかもほとんど覚えていない。
でも。
あの時の景色だけは、今でも鮮明に残っている。
テラス席で食事をしていると、
どこからともなく猫がやって来るのだ。
一匹。
また一匹。
気づけば私たちのテーブルの下には、何匹もの猫がちょこんと座っていた。
「ごはんちょうだい。」
そう言っているように見えた。
無類の猫好きの私にはたまらない。
エムレと話しながらも、
気になっていたのは完全に猫だった(笑)
お肉を小さく切っては、
「はい。」
また一切れ。
「はい。」
気づけば、自分のお肉を半分くらい猫たちにあげていたと思う。
今思えば、
エムレより猫と遊んでいた時間の方が長かったかもしれない(笑)
ちなみにこれは後から聞いた話だけど、トルコの猫は日本人を見分けるらしい。
日本人は猫に優しい人が多いから、日本人のテーブルへ真っ先に寄ってくるんだとか。
本当かどうかは分からない。
でも、あの日あれだけ猫に囲まれた私は、ちょっと信じたくなった。
食事のあとは街を少し散策した。
そこで見つけたのが、キッチンカーのトルコアイス屋さん。
もちろん買ってみる。
すると……
やってくれた。
ガイドブックで見たことがある、あのパフォーマンス。
渡してくれると思ったら引っ込める。
取れそうで取れない。
また引っ込める。
完全に遊ばれた(笑)
でも、それも含めて楽しかった。
その後、一緒にホテルへ戻った。
同じツアーの参加者に見つからないよう、二人でこそこそロビーを通り抜けながら。
その夜、エムレは私の部屋に泊まった。
……とはいえ。
何もしていない(笑)
いや、
キスくらいはした。
でも、それ以上はなかった。
実際に会って一緒に過ごしてみて思った。
「違うな。」
と。
チャットではあんなに甘い雰囲気だったのに、
実際に会ってみると恋人というより友達。
私はそう感じてしまった。
一度そう思うと、どうしても先へは進めない。
「生理だから。」
と言って、それ以上は断った。
期待させちゃって悪かったかなとは思う(笑)
でも、自分の気持ちはごまかせなかった。
翌朝。
集合時間の少し前に、また二人でこそこそロビーを抜ける。
ホテルの前で、
「じゃあまたチャットでね。」
そう言って別れた。
帰国してからもしばらくは連絡を取り合っていた。
チャットでは相変わらず少しだけ甘い雰囲気になったりもした。
でも、それはどこか”ごっこ遊び”のようなもの。
少しずつ連絡の回数は減り、
気づけば自然とフェードアウトしていった。
今でも数年に一度くらい、
「元気?」
とメッセージが届くことがある。
私も忘れた頃に返信して、
「元気だよ!そっちは?」
そんなやり取りをして終わる。
恋人にはならなかった。
でも、イスタンブールの賑やかな夜。
テラス席に集まってきた猫たち。
そして半分くらい猫にあげてしまったシシケバブ。
あの日の景色だけは、
不思議なくらい今でも鮮明に覚えている。
エムレ。
今は元気にしてるかな。

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